発達障がいを考える 「独り言で困っていませんか?」
独り言が多い、どうにかできませんか? といったご相談を多くいただきます。
意味不明の言葉やテレビコマーシャルの台詞を真似て繰り返し発する。子どもは覚えた言葉を使うことで
会話ができるようになっていくものですが、発達障がいの子どもたちは、コミュニケーションをとるような
相手がいない場合でも、独り言を発していることがあるのです。独り言は私たちにもあることで、悪いこと
ではありませんが、あまりにも度が過ぎると、周囲の目が気になる親御さんもいらっしゃることでしょう。
啓太君は現在十二歳で、中学一年生ですが、三歳児検診で発達に遅れがあると指摘され、幼稚園の年中の
頃からサポートをしています。知的な遅れや多動もありましたし、言葉は出ているのに会話にならない。特
に困ったのは独り言でした。最初に啓太君に会ったときには、ミニカーを転がしながら、意味不明の言葉を
連発していたことを記憶しています。
まず行ったのは知的な遅れのトレーニングです。カードを使って語彙を増やす基本的な言葉のトレーニングから始め、「これは何?」と問いかけ、物の名前を答えられるように指導をしていきながら、色や形、数字、果物や野菜の分類、大きい小さい、多い少ない、高い低い、重い軽い、といった知能の基礎概念を身につけられるようにしていきました。
学習の土台になる基礎概念は、知能にとって重要で、基礎概念を理解できるようになるにつれて、生活が落ち着き状態も良くなっていきます。
啓太君は、言葉については意味を理解しているものも多く、野菜のカードを見せて「これは何?」と聞くと、「キャベツ!」や「キュウリ!」など多くの物を正しく答えることができました。ただ、二枚のカードを見せて「キャベツはどっち?」という質問には答えられませんでした。「どっち?」という質問の意味が理解できなかったことと、指をさして「こっち」ということができなかったのです。「どっち?」という質問に対して、正しいカードを指さしやすいように、少し前に出して指でカードをタッチす
る練習を繰り返し行っていくことで、ほどなくしてできるようになっていきました。
さて、独り言についてですが、独り言を言っているだけでも、呼吸や口やのどを使い、言葉の発生の練習になりますから、決して悪いことではないことを、まずは知っていただきたいと思います。
また、周囲からは理解しにくいと思いますが、独り言は本人にとっては意味があるので、強制的に止めることでチックになったり、別の問題行動につながったりすることもあるのです。最初に啓太君のご両親にお伝えしたのは、独り言を言っているときの啓太君本人は声が出ていることに気づいていませんから、「何を言っているの?」と話しかけていただくということ。
もし意味のある独り言だった場合には、独り言を会話になるようにつなげていく声掛けをする、というものでした。とにかく独り言に気づいたら、そのまま放っておかずに、声掛けをするのです。
発達障がいの場合、声が大きい方も少なくありません。独り言の声も大きいことが多いので、声を小さくするよう促すことも必要です。声のボリュームを絵カードにして「静かに、もう少し小さく」と教えるのも効果的です。独り言も、声の大きさの調節も、明日からすぐに改善されるものではありませんが、根気よく指導していくことで確実に改善につながっていきます。
では、啓太君はどうなったかというと、小学校に入る頃には独り言は全くなくなりました。そして、嬉しいことに、ご両親が願っていた普通学級に入学できたのです。
指導をすれば、成長と共に独り言は少なくなっていきますから、心配しないで、ゆっくりお子さんの成長を見守っていく気持ちを持っていただきたいと思います。